AI活用やDXという言葉を耳にする機会は増えています。しかし、小さな会社にとって本当に知りたいのは、「AIがすごいらしい」という話ではなく、自社の実務でどう使えるのかではないでしょうか。何から始めればよいのか、自社の業務でも使えるのか、本当に業務が軽くなるのか。こうした疑問は、実際に手を動かしてみないと見えにくいものです。
ヨーシーでは、自社の決算業務を題材に、クラウド会計ソフト、電子申告、電子納税、PDF資料、CSVデータ、AIを組み合わせながら、バックオフィス業務のデジタル化を試しました。この記事は、税務処理や申告方法を解説するものではありません。自社業務の改善・理解を目的として、クラウドツールやAIをどのように活用したかをまとめた実践記です。具体的な税務判断や申告内容については、税理士等の専門家にご確認ください。
決算業務は、バックオフィスDXの縮図だった
決算業務というと、会計ソフトで数字をまとめて、申告書を作成して、税金を納める作業というイメージがあるかもしれません。しかし、実際に進めてみると、そこには多くの情報とツールが関係します。会計データ、証憑、銀行明細、申告書、会社の基本情報、電子証明書、申告後の通知、納付結果、納税後の仕訳。さらに、国税と地方税では使うシステムも異なります。

つまり決算業務は、単なる経理作業ではなく、小さな会社のバックオフィス業務がどれだけデジタルで扱える状態になっているかを確認する機会でもありました。紙、Excel、会計ソフト、PDF、オンライン申請、銀行明細。これらがバラバラに存在しているだけでは、業務全体は見えにくいままです。今回の取り組みでは、決算業務を通じて、情報の所在、数字のつながり、残すべき証憑、自社で理解すべき範囲、AIが役立つ場面を一つずつ確認していきました。
紙の様式をデジタルで扱う難しさ
今回あらためて感じたのは、行政手続きや申告書類の多くが、もともと紙の様式を前提にしているということです。A4用紙の中に、多くの項目が並んでいます。限られたスペースに、会社情報、金額、期間、税目、番号などを入れる必要があります。もちろん、それぞれの項目には意味があります。ただ、初めて見る人にとっては、見出しや説明が少なく、「どこに何を入れるのか」「この項目は何を意味しているのか」が分かりにくい場面もあります。
これは、業務そのものが特別に難しいというより、決まったルールや用語を知っているかどうかに左右される部分が大きいということです。その意味では、AIは相性が良い場面もあります。マニュアルや記入例を読み込ませたうえで、「この項目は何を意味しているのか」「この場合はどこを確認すべきか」と相談すると、作業の道しるべになりやすいからです。ただし、AIに最終判断を任せるわけではありません。AIはあくまで、情報を整理し、確認ポイントを見つけるための補助役です。
クラウド会計ソフト・電子申告・PDF・CSV・AIを組み合わせて進めた
今回の決算業務では、クラウド会計ソフトに蓄積された仕訳データ、会計ソフトから出力したCSVデータ、申告ソフトで作成した申告データ、e-TaxやeLTAXなどの電子申告・電子納税、受信通知や納付結果通知などのPDF、インターネットバンキングの支払明細、マイナンバーカードとICカードリーダーによる電子署名、AIによる資料確認や手順整理を組み合わせて進めました。
電子申告には複数の方法やツールがあります。会社の環境や手続き内容によって、最適な進め方は異なります。そのため、今回の方法が唯一の正解というわけではありません。あくまでも、ヨーシーの環境で実際に試した一例です。ただ、複数のツールを使いながらも、データがデジタルで残っていることで、後から確認しやすくなる場面が多くありました。
オンライン化で減らせた、移動・待ち時間・手入力
役所に行かず、会社の資料を見ながら進められる
オンラインで進められる大きなメリットは、手続きのために役所へ移動しなくてよいことです。窓口での待ち時間もなく、必要な資料を手元で確認しながら進められます。紙の書類を持って窓口へ行く場合は、移動時間がかかるだけでなく、確認や修正が必要になったときに手元の資料が足りないこともあります。会社にいながら会計データや過去資料を見て修正できることは、少人数で業務を回す会社にとって大きなメリットだと感じました。

会社の基本情報を何度も入力しなくてよい
紙で申告書や申請書を作る場合、会社名、所在地、代表者名、事業年度など、同じような情報を何度も記入する必要があります。オンライン申告や申告ソフトでは、あらかじめ会社の基本情報を登録しておくことで、各種書類に転記される場面があります。同じ情報を何度も書かなくてよいこと、書き間違いを減らせること、過去の登録情報をもとに確認できることは、小さな効率化の積み重ねになります。
会計データをもとに申告データを作成しやすい
会計ソフトや申告ソフトを使うことで、会計データをもとに申告用データを作成しやすくなります。紙で処理する場合、本来であれば「どの数字をどの様式に転記するのか」を確認しながら手入力する必要があります。この作業には、入力ミスや転記ミスのリスクがあります。一方で、会計データを電子的に扱える状態にしておくと、申告ソフトへの取り込みや確認がしやすくなります。もちろん、データを取り込んだからといって、すべてが自動的に正しく完了するわけではありません。元データの確認や申告内容の確認は必要ですが、紙への手入力に比べると、数字の整合性を確認しやすくなる場面は多いと感じました。
電子納税とネットバンキングで納付まで進められる
申告後の納付も、対応している金融機関であればインターネットバンキングから行えます。納付情報から手続きを進めることで、金額などを手入力せずに支払える場面もあり、入力ミスを減らしやすいと感じました。オンラインで対応できる銀行は複数ありますが、日頃からオンライン操作に慣れている金融機関を使っていると、こうした手続きも進めやすくなります。申告、納付、支払明細の確認、証憑保存までをデジタルで進められると、後から確認する際にも便利です。
AIに任せたのではなく、AIと一緒に確認した
今回の取り組みで大切にしたのは、AIに任せきることではありません。AIに税務判断を丸投げするのではなく、業務の流れを理解し、確認ポイントを整理するための相手として使いました。AIは正解を断定するものではなく、人間が確認すべき候補を見つける補助役として活用しました。

会社情報や社内ルールを事前に整理すると、回答が具体的になる
AIを使って感じたのは、あらかじめ正しい情報を渡しておくほど、回答が具体的になるということです。たとえば、会社名、所在地、代表者名、役職名、事業年度などの基本情報を整理しておくと、記入例や確認ポイントを相談した際に、より実務に近い形で回答を得やすくなります。また、社内で決めている経理処理のルールや、毎年確認しているポイントを伝えておくことで、一般論ではなく、その会社の運用に合わせた確認がしやすくなります。
ただし、機密情報や個人情報の扱いには注意が必要です。利用するAIサービスの規約や社内ルールを確認し、入力してよい情報と入力すべきでない情報を切り分ける必要があります。
マニュアルや記入例を読み込ませて相談する
国や自治体の手続きには、マニュアルや記入例が用意されています。ただ、マニュアルがあるからといって、すぐに理解できるとは限りません。初めて見る画面や様式では、「この項目は何を意味しているのか」「今どの作業をしているのか」が分かりにくいことがあります。そこで、マニュアルや記入例のPDFをダウンロードし、AIに読み込ませたうえで相談しました。画面の意味、確認すべき項目、通知の役割、次に保存すべき資料などを整理しやすくなり、複雑なマニュアルを読み解くための補助線として役立ちました。
仕訳CSVから、要確認の候補を抽出する
クラウド会計ソフトから仕訳データをCSVで出力すると、一覧で確認しやすくなります。ここで有効だったのは、AIに「正解を出してもらう」のではなく、通常パターンから外れている取引や、確認すべき候補を抽出してもらうという使い方です。たとえば、同じ取引先なのに勘定科目が変わっていないか、毎月発生するはずの経費が抜けていないか、摘要だけでは内容が分かりにくい取引がないか、同じ種類の取引で税区分がばらついていないか、といった観点を指定して確認します。
これまで帳票を印刷したり、PDFを見ながら人の目でチェックしていた作業も、確認ルールを文章化してAIに渡すことで、要確認の候補を一覧化しやすくなります。もちろん、AIが抽出したものをそのまま正解とするのではなく、人間が最終確認します。AIは、確認作業を置き換えるというより、目視チェックの前段階を効率化する役割に近いと感じました。
会社独自の確認ルールをプロンプトにする
AIに仕訳CSVを渡すだけでは、一般的な確認しかできません。より実務に近づけるには、会社独自のルールをプロンプトとして伝えることが大切です。たとえば、「この取引先は通常この勘定科目で処理している」「この種類の支払いは税区分を確認する」「月次で発生する費用は毎月計上されているか確認する」といったルールを伝えることで、確認の精度が上がります。
これは、AI活用というより、これまで担当者の頭の中にあったチェック観点を言語化する作業でもあります。社内ルールを言語化し、データに対して確認する流れを作ること自体が、バックオフィスDXの一歩です。
申告後に発生するPDFを、役割ごとに整理する
電子申告や電子納税を行うと、申告の受付通知、納税情報の通知、納付結果通知、銀行の支払い明細、申告書の控えなど、複数のPDFや通知が発生します。最初は、どれが申告の証拠で、どれが納付完了の証拠で、どれを会計ソフトに添付すべきか迷いやすいものです。AIを使って資料の記載内容を確認し、「これは申告した証拠」「これは納付用情報」「これは納付完了の証拠」「これは銀行から出金された証拠」と役割ごとに整理することで、証憑管理の見通しが良くなりました。
納付後の仕訳まで確認する
申告して、納付したら終わり。そう思いがちですが、会計上はその後の処理も必要です。たとえば、決算時に未払計上している税金を、納付後に会計ソフト上で消し込む必要があります。申告する、納付する、納付結果を保存する、銀行明細を確認する、会計ソフトで未払を消し込む。ここまでつなげて、ようやく一連の業務として完了します。AIを使うことで、「この支払いはどの未払に対応するのか」「どの証憑を添付すべきか」といった確認もしやすくなりました。
きれいごとだけでは進まない。実際につまずいたポイント
DXやAI活用というと、きれいな言葉で語られがちです。しかし、実際に手を動かしてみると、細かいつまずきがたくさんあります。今回の取り組みでも、便利だったことばかりではありませんでした。
最初に立ちはだかる、アカウント登録と環境設定の壁
電子申告やオンライン申請を使うには、まず環境を整える必要があります。たとえば、利用者識別番号や利用者IDの取得、各種オンライン申請システムのアカウント作成、電子証明書、マイナンバーカード、ICカードリーダー、専用ソフトのインストールなどです。また、PCの環境によっては、追加のソフトが必要になったり、ブラウザやOSの条件を確認したりする必要があります。
一度環境が整えば、その後は大きく変わるものではありません。定期的なアップデートや確認で済む部分も多いと思います。ただし、最初の設定はやはり壁になります。普段からITツールに慣れていない会社にとっては、ここで止まってしまう会社は少なくないはずです。DXは、ツールを使い始める前の環境づくりが意外と大切です。
国税・地方税・登記など、手続きごとにシステムが分かれる
オンライン手続きといっても、すべてが一つの画面で完結するわけではありません。国税、地方税、登記関係など、手続きによって使うシステムが異なります。Web版、ソフト版、専用ソフトなど、複数の入り口がある場合もあります。そのため、どの手続きにどのシステムを使うのか、どこで申告するのか、どこで納付するのか、どこに通知が届くのか、どの資料を保存すべきかを整理する必要があります。このあたりは、実際にやってみないと分かりにくい部分でした。
全角・半角、入力形式などの細かい仕様で止まる
オンラインで手続きできる便利さはあります。一方で、全角・半角、日付形式、番号の入力、税目名、文字数制限など、細かな仕様で手が止まる場面もありました。ひとつひとつは小さなことです。しかし、慣れていない担当者にとっては、こうした小さなつまずきが積み重なることで、大きな負担になります。DXは、単にオンライン化すれば終わりではありません。実際に運用する人が迷わず使える状態になっているかどうかが大切です。
電子化されていても、紙ベースの分かりにくさが残る
電子申告やオンライン申請になっていても、元の様式が紙ベースの設計である場合、分かりにくさが残ることがあります。A4用紙に多くの情報を詰め込む前提で作られた様式は、オンライン画面になっても、項目の意味やつながりを理解するまでに時間がかかります。紙をPDFにしただけ、紙の様式を画面に置き換えただけでは、本当の意味で使いやすくなるとは限りません。この点は、ECサイトや業務システムにも通じるところがあります。単にデジタル化するだけでなく、利用者が迷わず使える設計にすることが大切です。
会計データが、そのまま申告業務の完了ではない
会計ソフトで決算書を作成しても、それだけで申告・納付・証憑保存・納付後処理まで完了するわけではありません。会計データを申告データに反映し、電子申告を行い、納付を済ませ、その結果を保存し、会計ソフトに戻す。ここまでが一連の流れです。会計ソフト、申告ソフト、電子申告、電子納税、銀行明細、証憑管理。それぞれの作業がつながっていることを理解する必要があります。ここを整理できたことは、今回の大きな学びでした。
AIを活かすには、まず業務がデジタルで扱える状態であること
今回AIを活用できたのは、会計データをCSVで出力でき、申告書や通知をPDFで保存でき、銀行明細もオンラインで確認できたからです。もし、紙の資料や担当者の記憶だけで業務が回っていた場合、AIに渡せる情報は限られます。AI活用というと、特別なシステムや高度な自動化を想像しがちです。しかし、まず大切なのは、日々の業務をデジタルで扱える状態にすることです。
- データを取り出せる
- PDFで保存されている
- CSVで確認できる
- 履歴が残っている
- 誰が見ても追える状態になっている
こうした土台があるからこそ、AIは確認役、整理役、相談相手として機能します。AIを導入する前に、業務データを整える。これは小さな会社にとって、とても現実的なDXの第一歩だと感じました。
デジタル化するほど、翌年の業務が楽になる
決算業務は毎年発生するルーティン業務です。一度きりの作業であれば、その場で何とか進めることもできます。しかし、毎年発生する業務だからこそ、データや手順を残しておく価値があります。過去の仕訳データ、決算書、申告資料、納付資料、作業メモ、チェックポイントをデジタルで整理しておくと、翌年以降は前年との比較や確認がしやすくなります。
また、今年つまずいた点を「来年のチェックリスト」として残しておけば、次回は同じところで迷いにくくなります。AIを使えば、作業中に確認した内容やつまずいたポイントを整理し、次回のための簡易マニュアルとしてまとめることも可能です。これは、単に今年の業務を効率化するだけではなく、会社に業務ノウハウを蓄積することにつながります。
デジタル化は、その年だけの効率化ではありません。毎年発生する業務ほど、データを残し、手順を残し、確認ポイントを残しておくことで、次回以降の負担を減らすことができます。
バックオフィスもEC運営も、データが整っていないと改善できない
今回の題材は決算業務でしたが、この考え方はEC運営にもそのまま当てはまります。ECサイトでは、受注データ、顧客データ、広告データ、アクセス解析、問い合わせ履歴、レビュー、在庫情報、配送状況、リピート購入履歴など、日々さまざまなデータが発生します。これらがバラバラに存在していると、分析や改善は難しくなります。
逆に、日々の業務データが整理されていれば、売上分析、リピート施策、問い合わせ削減、広告改善、在庫管理など、さまざまな改善につなげやすくなります。AI活用も同じです。データが整っていない状態でAIだけを導入しても、十分に活用することは難しいでしょう。バックオフィスもEC運営も、まずは業務を見える化し、データで扱える状態にすることが重要です。
小さな会社に必要なのは、大掛かりなDXではなく「業務の見える化」
DXというと、大規模なシステム導入や高度なAI活用をイメージしがちです。しかし、小さな会社にとって最初に必要なのは、今ある業務を整理し、どこに手間がかかっているのかを見える化することではないでしょうか。たとえば、どの業務が紙やExcelに依存しているのか、どのデータがどこに保存されているのか、誰の判断で業務が止まりやすいのか、どの作業をAIやツールで補助できるのか、どこは専門家や外部パートナーに任せるべきなのか。こうした棚卸しから始めるだけでも、改善の余地が見えてきます。
最初から完璧なシステムを作る必要はありません。まずは、業務の流れを整理し、データを取り出せる状態にすること。そこから、クラウドツールを使うのか、AIを使うのか、外部に依頼するのか、自社で運用するのかを切り分けていく。これが、小さな会社にとって現実的なDXの進め方です。
ヨーシーは、現場の業務を整理しながらデジタル活用を支援します
ヨーシーでは、EC運営や自社業務の実務経験をもとに、現場の業務を整理しながら、クラウドツールやAIを活用した改善を支援しています。私たち自身も、小さな会社として日々の業務を行いながら、デジタル化やAI活用を試しています。今回の決算業務DXも、その一つです。
きれいな理論だけではなく、実際に手を動かす中で見えてくるつまずきや、少人数で業務を回す難しさを理解したうえで、現実的な改善を考えることを大切にしています。EC運営やバックオフィス業務の中で、「どこからデジタル化すればよいか分からない」「AIを使ってみたいが、自社業務にどう活かせるか分からない」「紙やExcel、属人化した業務を整理したい」「受注、問い合わせ、在庫、広告、顧客データをもっと活用したい」と感じている方は、お気軽にご相談ください。
ヨーシーでは、現場の業務を一緒に整理しながら、小さな会社でも取り組みやすいデジタル化・AI活用をご提案します。
まとめ
今回の決算業務を通じて感じたのは、AIやDXは特別な大企業だけのものではないということです。ただし、AIを使う前に、業務がデジタルで扱える状態になっていることが大切です。紙の資料、属人的な判断、バラバラのデータのままでは、AIを十分に活かすことはできません。
まずは業務を見える化する。データを残す。必要な情報を取り出せるようにする。そのうえで、AIやクラウドツールを確認役・整理役として活用する。小さな会社にとってのDXは、こうした一歩から始まるのだと思います。
