生成AIの登場によって、ECサイトの商品ページ制作は大きく変わりました。商品の特徴やターゲットを入力すれば、キャッチコピーや商品説明、FAQ、ページ構成まで短時間で作ることができます。画像生成やWeb制作のAIも進化し、専門的な制作スキルがなくても、一定水準のページを作りやすくなっています。
これはEC事業者にとって大きなメリットです。一方で、誰でもそれなりに整ったページを作れるようになると、今度は「何を載せるか」で差がつく時代になってきます。もちろん「80点」という数字に明確な基準があるわけではありません。ここでは「十分に見栄えが整い、一定の品質に達したページ」という意味で使っています。
私は長年、自社ECの運営や商品ページ制作に携わり、現在も食品ECを中心にクライアントのサイト改善を支援しています。その中で感じるのは、AIによって「ページを作る技術」と「売るために必要な情報を見つける力」が、より明確に分かれてきたということです。ここでは、AIを使うことを前提に、これからのECサイトや商品ページでは何が差になるのかを考えてみます。
AIによって「ページを作ること」の価値は大きく変わった
少し前まで、商品ページを作るには、ライティング、デザイン、HTMLなど、それぞれの専門的なスキルが必要でした。制作会社へ依頼する場合も、企画から原稿作成、デザイン、実装まで、それなりの時間と費用がかかります。しかし現在は、商品情報をAIへ渡せば、ページ制作に必要な多くの作業をサポートしてもらえます。
- 商品のキャッチコピーを考える
- 商品説明文の初稿を作る
- ページ全体の構成を考える
- よくある質問を整理する
- SEOを意識したタイトル案を作る
- 複数パターンの訴求方法を考える
以前であればゼロから考えていたものを、まずAIに作ってもらい、それを人が調整することができます。制作のスタート地点が大きく前に進んだと言っていいでしょう。画像生成やWeb制作支援の技術も進んでいるため、今後はさらに「それなりにきれいなページ」は珍しくなくなると考えています。
これはAIを使うべきではない、という話ではありません。むしろ積極的に使った方がいいでしょう。ただ、制作そのもののハードルが下がるほど、「きれいに作れる」ということだけでは競合との差がつきにくくなります。

見栄えのいいページと、売れるページは同じではない
Webサイトを制作すると、どうしても目に見える変化に注目しがちです。スクロールすると文字や写真がふわっと表示されたり、大きな画像がスライドしたり、さまざまなアニメーションが入ったりすると、リニューアル前との違いが分かりやすくなります。こうした表現が悪いわけではありません。ブランドの世界観を伝えたり、商品の魅力を演出したりするために有効な場合もあります。
ただしECサイトでは、もう一つ考えなければならないことがあります。その演出によって、お客様の購入判断はしやすくなったのか。食品ECなら、お客様が気になっているのは、意外ともっと現実的なことかもしれません。
- 実際にはどれくらいの大きさなのか
- 何人くらいで食べられる量なのか
- どんな状態で届くのか
- 冷蔵なのか冷凍なのか
- 届いてからどれくらい日持ちするのか
- どうやって食べるとおいしいのか
- 贈り物に使った場合、どんな荷姿で届くのか
ページのアニメーションを一つ追加するより、商品の横に手や定規を置いた写真を一枚追加した方が、購入の不安が減ることもあります。送料について迷っている人が多ければ送料を分かりやすくする。調理方法の質問が多ければ食べ方を追加する。ギフト利用が多ければ梱包状態を見せる。こうした改善は、見た目としては地味です。
しかし、ECの商品ページは作品ではなく、購入判断を助けるページです。売れるページを考えるうえでは、「何を作ったか」以上に「お客様が何を知りたいのか」を考える必要があります。
AI時代のECサイトで差がつく5つのポイント
AIを使えば、文章や構成を作る作業はかなり効率化できます。では、その先では何が差になるのでしょうか。私は、大きく5つあると考えています。
商品そのものをどこまで理解しているか
AIは文章を作ることは得意ですが、販売している商品を実際に見たり、触ったり、食べたりしたわけではありません。例えば北海道産の海産物について「商品の魅力を紹介してください」と依頼すれば、それらしい文章は作ってくれます。しかし、商品の名前や産地、規格程度しか情報を渡していなければ、どうしても一般的な説明になりやすくなります。
- 思っていたより身が厚い
- 加熱しても身が縮みにくい
- 脂が多いが後味は重くない
- 一般的な商品よりサイズが大きい
- 解凍方法によって食感がかなり変わる
- 実際には一人で食べきるには多い量だった
こうした情報が分かれば、AIに渡せる材料そのものが変わります。同じAIを使っていたとしても、入力する情報が違えば、出来上がるページも変わります。これからはAIの性能差以上に、与える情報の差が重要になってくるでしょう。
お客様が何に迷っているのかを知っているか
商品を理解することと同じくらい重要なのが、お客様を理解することです。ECサイトを長く運営していると、電話やメール、問い合わせフォームなどから、さまざまな質問が届きます。レビューやクレームにも、お客様が購入前後にどこで迷っているのかを知るヒントがあります。
例えば「この商品は何人前ですか?」という問い合わせが何度も来るのであれば、それは商品ページに情報が足りていない可能性があります。「贈答用にできますか?」と頻繁に聞かれるのであれば、ギフト対応についてもっと分かりやすく伝えた方がいいでしょう。日々の問い合わせは、商品ページ改善の材料でもあります。

自分たちだけが持っている一次情報があるか
生成AIは、すでに存在する大量の情報を整理したり、組み合わせたりすることを得意としています。一方で、自社の商品のことや、昨日生産者から聞いた話、実際に商品を調理して気付いたことまでは、こちらから伝えなければ分かりません。
- 生産者を訪ねて聞いた話
- 漁港や市場で見た商品の状態
- 実際に商品を撮影して分かった特徴
- 自分たちで調理して試した食べ方
- 梱包や発送をしていて分かった注意点
- お客様から実際に寄せられた声
こうした情報も一次情報になります。AIによって一般的な情報をまとめることが簡単になったからこそ、自分たちしか持っていない情報の価値はむしろ高くなると考えています。これは特別な調査をしなければ得られないものばかりではありません。日々のEC運営の中に、すでにたくさんの一次情報があります。
何を載せ、何を載せないか判断できるか
AIを使うと、情報はいくらでも増やすことができます。「もっと詳しくしてください」「他にもメリットを追加してください」「FAQを20個作ってください」と指示すれば、長い商品ページを簡単に作れます。しかし、情報量が多ければ売れるわけではありません。
お客様が最初に知りたい情報は何か。購入を迷うポイントはどこか。どこまで説明すれば十分なのか。どの情報を写真で見せ、どの情報を文章で説明するのか。商品の特性やお客様によって正解は変わります。だからこそ、AIに情報を作らせるだけではなく、情報の優先順位を決める力が必要になります。
作って終わりではなく、結果から改善しているか
商品ページは、公開した瞬間に完成するものではありません。実際に販売を始めると、想定していなかった検索キーワードからアクセスが来たり、特定の商品だけ広告の反応が良かったり、新しい問い合わせが増えたりします。
- 売上や注文件数
- コンバージョン率
- 広告の費用対効果
- 検索されているキーワード
- ページ内の行動
- 問い合わせ内容
- 商品レビュー
- 電話や店頭で寄せられた質問
こうした結果を見ながら、ページの情報を追加したり、写真を変更したり、説明の順番を変えたりします。AIが最初の80点を短時間で作ってくれるのであれば、人間がゼロから80点まで作ることに時間を使い続ける必要はありません。その分、80点から先を検証することに時間を使う。これがAI時代のECサイト運営では、より重要になるのではないでしょうか。

AIを使うほど「現場を知っている人」が強くなる
AIが普及すると、専門知識の差がなくなると言われることがあります。確かに、以前なら専門家へ聞かなければ分からなかったことも、現在はAIへ質問すればかなり詳しく教えてもらえます。文章やアイデアを作る能力についても、AIによる底上げが起きています。
しかしEC運営の現場では、それによって人の役割がなくなるというより、役割が変わっていくと考えています。重要になるのは、AIにどんな情報を渡すのか、AIが出した回答が自社の商品に合っているか、お客様にとって本当に必要な情報なのか、実際の販売結果を見て何を変えるのかを判断することです。
AIは優秀な制作パートナーになります。しかし、商品を食べたり、生産者と話したり、お客様から問い合わせを受けたり、実際の売上を見ながら試行錯誤したりするのは、ECを運営している現場です。AIを使うほど、現場で得られる情報が重要になる。ここは、今後のECサイト運営を考えるうえで大きなポイントになると思います。
AIに任せる仕事と、人がやる仕事を分けて考える
だからといって、文章やページ制作をすべて人の手で行う必要はありません。AIが得意なことは、積極的に任せた方が効率的です。
AIに積極的に任せたいこと
- 商品説明文の初稿を作る
- ページ構成を整理する
- キャッチコピーを複数考える
- FAQ候補を洗い出す
- 長い情報を整理する
- 表現のバリエーションを考える
人が中心になって行いたいこと
- 商品を実際に確認する
- お客様の声を集める
- 自社ならではの情報を見つける
- どの情報を優先するか判断する
- AIが作った内容に間違いがないか確認する
- 公開後の結果から改善する
これからは「人がページを作るか、AIがページを作るか」という二者択一ではありません。人が材料と判断を担い、AIに制作を手伝ってもらう。この役割分担が、ECサイト制作では当たり前になっていくのではないでしょうか。
よくある質問
AIだけで商品ページを作っても問題ありませんか?
商品説明文や構成の初稿を作る目的であれば、AIは非常に便利です。ただし、入力した商品情報が不足していれば、実際の商品とは少し違う表現や、どの商品にも当てはまる一般的な内容になることがあります。特に食品では、産地、内容量、保存方法、賞味期限、調理方法など、間違えるとお客様へ迷惑をかける情報もあります。AIが作った文章をそのまま公開せず、必ず事実確認を行うことが重要です。
AIで作ったページはSEOやAI検索で不利になりますか?
AIを使ってページを作ったという理由だけで、Google検索で不利になるわけではありません。Googleも、生成AIをコンテンツ制作に活用すること自体は問題としておらず、重要なのは最終的に公開されるコンテンツの品質や有用性だとしています。一方で、AIを使って既存情報をまとめただけのページを大量に作ったり、検索順位を上げることを主目的としてコンテンツを生成したりすることには注意が必要です。
また、GoogleのAI OverviewやAI Modeなど生成AIを使った検索でも、従来のSEOの基本は引き続き重要とされています。そのうえでGoogleは、独自の視点や実体験を含む、価値のある独自性の高いコンテンツを重視する考え方を示しています。つまり、AIを使ったかどうかより、そのページに独自の価値があるかが重要です。
実際に商品を使った感想、生産者から直接聞いた話、お客様から寄せられた質問、販売データから分かったことなど、自社だから持っている情報をAIと組み合わせることが、これからはより重要になってくると考えています。参考:Google検索における生成AIコンテンツのガイダンス、Google検索の生成AI機能向け最適化ガイド
AIが進化すると、制作会社やECコンサルは必要なくなりますか?
AIによって、文章作成や情報整理、制作作業の一部は確実に効率化されていくでしょう。その結果、単純に「知っていることを教える」「言われた通りにページを作る」という仕事の価値は変化していくと思います。一方で、商品や顧客の情報を集め、課題を見つけ、何を優先して改善するのかを判断し、実際の結果まで確認する仕事は残ります。このテーマについては、AI時代のEC支援という別の機会に詳しく取り上げたいと思います。
まとめ:AIで80点を作れるからこそ、その先が重要になる
生成AIによって、ECサイトの商品ページを作るハードルは大きく下がりました。文章を考え、構成を作り、アイデアを出す。これまで時間をかけていた作業をAIが手伝ってくれることで、一定水準のページを短時間で作れるようになっています。
だからこそ、これから重要になるのは、作る技術だけではありません。商品を実際に知ること。お客様の声を聞くこと。自分たちだけが持っている情報を集めること。そして、公開したページの結果を見ながら改善を続けること。差がつくのは、ページに入れるべき「現実の情報」をどれだけ持っているか。
AIで制作時間を短縮できるのであれば、浮いた時間を、現場を見ることやお客様を知ることに使う。そうすることで、AIは単にページを量産するための道具ではなく、ECサイトをより良くしていくための強力なパートナーになります。
ヨーシーでは、AIも積極的に活用しながら、商品やお客様の情報、アクセスデータ、広告の結果などをもとに、自社ECサイトの商品ページや販売方法の改善を支援しています。AIでページを作れる時代だからこそ、その先にある「何を伝えるべきか」「何を改善するべきか」を大切にしていきたいと考えています。
